ひとくちlw´‐ _‐ノvくりぃむ

ブーン系作品まとめブログ

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川д川人魚の木乃伊のようです('A`)1/4

2:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 15:55:20.00 ID:lL/o96KP0


 昔、小学六年生の頃くらいに

 遠足で、とあるお寺に訪れたことがあった

 子供のわたしたちにとって、とても退屈なそこは

 人魚のミイラを保管していることで有名な場所だったらしい


 人魚といっても、まだ幼かったわたしには

 絵本で見たような金色の髪を頂いた、綺麗ないきもの

 耳がとろけるような歌を唄う、神秘的ないきもの

 でも、おばけと同じで本当はいないもの

 その程度の想像が全てだった

4:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 15:58:17.37 ID:lL/o96KP0


 でも、お寺の住職さんがニコニコと笑いながら

 差し出した小さな箱には、金髪の美人も綺麗ないきものも入ってはいなかった


 ただ乾いて、小さくて

 そしてとびきり醜い、なにかの死骸だった


 わたしは初めて見た人魚のミイラが、あまりにも怖くて膝が震えたけど

 一緒に付いて来てくれた彼は、興味津々に住職さんに尋ねていた


 「このミイラは本物の人魚なんですか?」


 って

6:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:04:34.78 ID:lL/o96KP0


 住職さんはまたニコニコしながら、でも首を横に振った

 でも機嫌は良さそうで、多分、その質問を聞いて欲しくて欲しくて

 堪らなかったんだと思う


 「これはね、残念だけど作り物なんじゃよ」

 「昔の人が魚の骨と、猫とか、猿とかの亡骸を寄り合わせて」

 「作ったらしい。それでも、当時の人はこれを本物の人魚と思っていたそうだ」

 「とてもとてもありがたいものとして、手を合わせる人もいたんだよ」

7:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:11:00.25 ID:lL/o96KP0


 「人魚は生前、罪を犯した人が生まれ変わったという話もある」

  「つみ? 一体何をしたの?」

 「色々じゃよ」

 「魚を取ってはいけない神聖な場所で、多くの魚を獲ってしまった漁師とかかのう」

 「人魚になってからは、自分の姿を末永く残して、殺生の罪の重さを人々に伝えて欲しい」

 「そう言った、という逸話もあるんじゃ」


 私には住職さんのお話は退屈で、冗長で、難しかったけど

 彼はとても興味津々で、一心不乱に聞き入っていた

8:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:14:03.80 ID:lL/o96KP0


 てっきり、ミイラが本物じゃないからガッカリしている

 そう思っていたけれど、彼は思いのほか上機嫌で

 帰りのバスの中でも、隣の席で妙に興奮していたのを良く覚えている


 「ねえ、ドクオ君」

  「何?」

 「人魚、本物じゃあなかったね」

  「そうだね」

  「でも、とても面白いものを見れたと思う」

 「ガッカリしてないの?」

  「まさか!」


 ドクオ君は身を乗り出してそう言った

10:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:17:16.58 ID:lL/o96KP0


 「どうして? 人魚、作り物だったでしょ?」

 「ドクオ君、今日ここに来る前に、本物の人魚が見れるんだって」

 「すごく楽しみにしてたじゃない?」

  「うん、人魚が本物なら、確かにもっと嬉しかったかも」

  「でも今は別の意味で、すごく有意義な気持ちだよ」

 「?」

  「感動したんだ」

  「昔の人が、魚や動物の骨から、あんなリアルで、グロテスクで」

  「心に訴えかけてくるものを、作ったって事実に感動した」

  「胸を打たれたんだ。カルチャーショックだよ」

 「???」

11:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:20:32.11 ID:lL/o96KP0


 私には彼の言っていることが良く分からなかった

 私は、やっぱり綺麗で美しいものが好きだから

 少なくとも、あのミイラは好きになれそうになかった

 彼のように感動する事なんて、できなかった


 「すごいなぁ。たくさんの人がアレを人魚って信じたんだ。神様みたいに手を合わせたんだ」


 でも喜んでいる彼を見ているのも、好き

 美しいものや綺麗なものを見るよりもずっと、ずっと好きだ

 昔も、今も

 だからその点においては、あのミイラにありがとうを言いたい

12:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:22:30.86 ID:lL/o96KP0













                             「美しいもの、素晴らしいものは人間の手で作れるんだ」

                             「僕も、僕もいつか作りたいなぁ」













13:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:24:58.74 ID:lL/o96KP0

             人

             魚

             の

             ミ

             イ

             ラ

             の

             よ

             う

             で

             す

16:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:27:56.16 ID:lL/o96KP0

 * * *


 ピンポーン


('A`)「はい、はい、今出るよ。出る」


 ガチャ


川д川

川д川「おはよう、ドクオ君」

('A`)「んん」

('A`)「うん、おはよう。暑いな、今日も」

川д川「夏、だからね」

17:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:30:43.78 ID:lL/o96KP0


 バタン


('A`)「スリッパ、いる?」

川д川、「うん、ごめんね。サンダル履いて来ちゃったから」

川д川「フローリングに足跡、付いちゃうもんね」

('A`)「それくらいいいよ、拭けば消えるし」

('A`)「うん、でも……はい、スリッパ。ピンクでいいよな?」

川д川「うん、うん」

川д川「ありがとう」

('A`)


 ガチャ


19:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:35:09.47 ID:lL/o96KP0


('A`)「はい、麦茶」


川д川「ありがとう」

川д川、「暑いよ、外、すごく。喉渇いちゃって」

川д川、「私、細いから。水気無くなると頭ボーっとしちゃうから大変」

川д川「一応、水筒持ってるけど、あんまり重いの持てないから」

川д川「ちっちゃくて……すぐ、無くなっちゃった」

('A`)

('A`)「うん、飲んでいいよ。俺はいいから」

川д川

川д川「……うん」


 ゴクッゴクッ


21:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:39:32.74 ID:lL/o96KP0


川д川

('A`)

川д川

川д川「おじさんとおばさん……いないんだね」

('A`)「うん、そう」

('A`)「ここ二週間くらい、海外に行ってるんだ。俺、ほっといて」

('A`)「ひどいよな。まぁ、ひとりが気楽でいいけど」

川д川

川д川「でも、そうだよね」

川д川「おじさんとおばさんいたら、今日、私を呼んだりしないもんね」

川д川、「うん、うん、そうだよね」

25:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:43:47.51 ID:lL/o96KP0


 ジーワ ジーワ ジーワ


('A`)「セミ、すげぇな」

川д川「うん」

('A`)「猛暑だな。もう八月だし、すっかり夏だ」

川д川「うん」

('A`)「……そういや、あの遠足も夏の入り際だっけ」

川д川

川д川「どう、だったかな」

('A`)

川д川

川д川「ねえ、ドクオ君」

川∩д∩川「その……お風呂、借りてもいい、かな?」

34:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:48:05.28 ID:lL/o96KP0


('A`)

('A`)「でも、湯船……空だぞ?」

川∩д∩川「いいの、シャワーだけ借りられたら、いいから」

('A`)「……それならいいけど」

川∩д∩川「ごめんね、急にこんなこと言ってごめんね」

川∩д∩川「でもすぐ終わるから。ごめんなさい」

('A`)

('A`)、「いいよ。洗面所のタオルも、好きに使っていいから」

('A`)「だから、あんま謝んなよ」

川∩д∩川「うん、うん……」

41:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 16:59:00.24 ID:lL/o96KP0


 * * *


( ^ω^)「おーぅい、どくおや、どくお」


 浜を蹴って、漁師仲間のぶぅんが駆け寄ってきおった。

 コイツは昔から太っとる。
 わしや他の漁師連中と同じように、毎日細い食で食いつないどるとは思えんほどの巨漢だ。
 羨ましいが、あれはあれできっと体重くて毎日仕方がないのじゃろう。

('A`)「何じゃ、ぶぅん」

( ^ω^)「何じゃて、漁じゃ漁! そっちの網はどうじゃった?」

('A`)「どうもせん」

 わしが解れを編んどった地引網には、鰯一匹おりゃあせん。
 三月も前というのに、まだ赤潮で悪いもんがのこっとるのか。
 ぶぅんのように元気には振舞えん。

45:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:02:56.96 ID:lL/o96KP0


( ^ω^)「厳しいのう」


 ぶぅんは肉で細なった目を、余計に細くして海を睨んだ。


( ^ω^)「おいらは嫁とカーチャン食わしてやらにゃならんから余計に大変じゃ」

('A`)「独りは独りで辛いんじゃ。食いぶち以上にの」


 ぶぅんには嫁がおる。家族がおる。
 しかしわしには何もありゃあせん。財産も、家族も何もかも。

 ぶぅんが太っとるんは、きっと幸せ太りじゃ。

 そう言い聞かせて、わしは家に戻った。

49:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:08:28.85 ID:lL/o96KP0


 家は狭いが、わしには広すぎた。


('A`)「…………」


 床に据え取る、死んだ嫁の着物に手を合わせてから。

 苔むした水瓶から柄杓をとった。もうそこを突きかけとった。


('A`)「また調達せにゃあの」


 独り言が癖になりだしたのは、きっと嫁が死んでからじゃ。

 独り身の時はずぅっと黙って暮らしとったが、
 嫁がおった頃は、嫌でも嬉しくても家の中はうるさかった。

 その名残で、今でも嫁が「はいはいそうだねあんた」と、

 返事をしてくれるのを待っているのかもしれん。

53:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:13:26.54 ID:lL/o96KP0


('A`)「酒もありゃあせん……か」


 薄い布団に横たわって、じぃと天井を見つめる。


 着物に染みついた汗の臭い。湿った木と潮の臭い。
 嗅ぎ慣れたそれも、なんだか鼻の奥に沁みて、沁みて。

 きっとわしは今でも寂しくてしゃあない。

 嫁が死んでから、もう何日も何ヶ月も何年も。

 女の身体が恋しいのではない。


('A`)「広すぎる家が寂しいんじゃ……」


 ほれ、また独り言じゃ。

55:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:19:41.00 ID:lL/o96KP0


 明日も早い。

 漁師に休みなんてない。

 泣く暇も、寂しさに震える時間も、何もない。


(-A-)。°


 だから、嫌なこと全部投げ出して、寝よう。

 そんな風にうとうとしていると、浜から波に紛れて、

 何か、何か聞こえてくるような気がした。


('A`)「なん、じゃ……?」


 初めは寂しいあまり、夢で嫁の声を聞いとるのかと思った。

 でも、なんだかやわっこくて、細くて、絹のようなそれは確かに浜から聞こえとった。

 波に紛れて、誰かを呼んでおった。
56:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:25:03.86 ID:lL/o96KP0


 もしかしたら、誰ぞが網や船に悪さをしているのかもしれん。


 夢見心地で声に聞き入っている反面、そう思うとやけに頭がしゃっきりした。

 床から立ち上がり、なるたけ長い薪を握るとずずぅっと戸を開けた。


 夜の浜は暗い。足元もおぼつかん。

 ぴしぴしと夜風に吹かれた砂を頬に受けて、それでもわしはじりじり進む。

 耳を頼りに、声のする方へじりじり、じりじりと。


 次第に、大きな松の生えた岩陰の方から、声がしとると分かる。

 近付いて分かったが女じゃ。そんで歌を唄っているらしい。

 あんまり綺麗な声なんで、蕩けて薪を取り落としそうになる。

57:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:28:31.20 ID:lL/o96KP0


 夜の浜で? 女が歌を?


 薪を握る手に力がこもった。怪しい奴じゃ。

 いや、もしかしたら頭がおかしいだけかもしれん。

 しかし、本当に船や網に悪さをしていたら放ってはおけない。


('A`)「ッ!」


 岩陰に乗り出すと、女の影にがばぁと覆い被さった。


川д川


 そこには確かに女がおった。

 じゃが、あんまり驚いたんで飛び出したわしが薪を取り落としてしもうた。

58:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:33:17.22 ID:lL/o96KP0





 女には手足がなく、代わりに青い青い魚の”ひれ”が付いておった。





59:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:35:03.85 ID:lL/o96KP0

 * * *


 シャアアアァアァア……


('A`)「貞子」

('A`)「貞子、聞こえるか?」

 「うん、聞こえてるよ……」

('A`)

('A`)「着替え……俺のシャツとズボンしかないけど、置いておくから」

 「うん、うん、ありがとう」

('A`)「…………」

('A`)「大丈夫か? のぼせたか?」

('A`)「暑いんだから、適当な所で上がれよ?」

 「うん、そうだね。そろそろ、あがろうかな」

60:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:39:08.98 ID:lL/o96KP0

 「あ、そうだ、今上がるよ。ほら、着替えあるし……」

('A`)「俺、出るから。その後に上がれよ」

 「いいよ、裸くらい」

 「もう付き合い長いんだし、幼稚園の頃、一緒にお風呂入ってたじゃない」

('A`)「それ、いま出ていい理由と関係ないs――」


 ガララ


川д川

('A`)、「うあ、も、もう出るから……」

('A`)´

('A`)「お前それ……肩のところ、タバコの跡か?」

川д川「……うん」

61:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:41:37.48 ID:lL/o96KP0

('A`)

('A`)、「親父さんか……?」

川д川「うん、そう。朝にちょっと、怒らせちゃって……」

('A`)

('A`)「もう慣れた……のか?」

川-川 )) フルフル

川д川「慣れないよ。我慢も出来ないし、痛いし、熱いしね」

川д川「慣れたら、良かったのにね。もう何年も叩かれて、これだもん」

('A`)

('A`)「ごめんな」

62:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:44:49.60 ID:lL/o96KP0


川-川「ドクオ君は悪くないよ? 何も」

川д川「私の運がなかっただけだよ。運悪く、怒りっぽいお父さんとお母さんの家に」

川д川「生まれちゃっただけだから」

('A`)

川д川「むしろ、こうやって最後に協力できて、私、嬉しいよ」

('A`)

川д川

川-川「嫌なもの見せて、ごめんね」

('A`)「うん……いいよ、だからそんな」

( A )「謝んなくていいから……」

65:忘れてた、一応グロにつき閲覧注意です :2010/07/19(月) 17:49:22.45 ID:lL/o96KP0


 ガチャ


川д川「はは、ドクオ君の服でも結構ブカブカだなぁ」

川д川「同じくらい痩せてるけど、不思議だね」

('A`)「肩幅が全然違うからな」

川д川「ドクオ君も男の子なんだねえ」

('A`)


 ギシッ


川д川

川д川「お風呂ありがとう。最後にさっぱり出来て、良かった」

川д川「それで……いつ始めようか?」

川д川「夏の、自由研究」

68:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 17:56:36.05 ID:lL/o96KP0


('A`)

('A`)「いつでもいいけど、な」

川д川「場所は?」

('A`)「地下のガレージに、一晩かけてビニールシート張っといたから」

川д川「すごいすごい、頑張ったね」

('A`)「まぁ、結構広いからな」

('A`)

川д川

川д川「私も、いつでもいいから」

('A`)「……うん、じゃあ、行くかな」

('A`)「先、行っといてくれ。工具とか、材料色々取ってくるから」

川д川「うん」

69:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 18:00:59.81 ID:lL/o96KP0

 * * *


川д川「疲れて動けなくなっていたところを、どうもありがとうございます……」


 助けた女は、柳のように黒く長い髪をしな垂れさせて、礼を述べる。

 海水を張った桶の中で、というのがどうにも奇妙じゃったが。


('A`)「そんで、その、お前さんは……」

川д川「はい、人魚です」


 えらくはっきりとそう答えた。

 わしは疑うことも馬鹿らしくなる。そりゃあそうじゃ、ひれの生えている女が人魚と名乗うとる。

 足なんてびっちり鱗の生えた魚の尾っぽそのもの。疑うべくもない。

 疑うなら、寂しさでわしの頭がどうかしたくらいだろう。


('A`)「人魚、のう……」

72:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 18:06:31.82 ID:lL/o96KP0

('A`)「人魚というと、海に住んどる妖怪みたいなやつか」

川д川「妖怪、でしょうかねぇ?」

('A`)「自分が妖怪かも分からないのか」

川д川「私は、人魚ですから。それ以上のことは何も」

('A`)「ふむ……」


 眠気も消えて、すっかり眼が冴えてしまう。


 何でも人魚は、強い潮の流れにのって遠くから流されて来たらしい。

 故郷の海は、わしの住む浜よりもずっとずっと南の方で。

 帰りたいのは山々だが、ひれをサンゴで切ってしまい痛くて動かせないと。

 聞くだに難儀な話じゃ。

73:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 18:11:28.59 ID:lL/o96KP0

 わしも何故にこいつを拾って、わざわざ行水用の桶を引っ張り出して。

 海水まで汲んでこの人魚を家に引き入れたのかさっぱりわからない。

 ただ怪我をしたこいつ見つけた時は、体が自然に動いた。

 それだけの話じゃった。


('A`)「かわいそうじゃがな、人魚。そのひれじゃあ、あの潮に逆らって泳ぐのは無理じゃ」

('A`)「怪我を治すか、季節が変わるまでこの湾で待つしかあるまい」

川;д川「そんな、故郷には家族もいるんです」

川д川「きっと帰らないのを怒っています。早く帰りたいのに……」

('A`)「わしにはどうすることも出来ん」


 しおらしくなる人魚を見ていて胸が痛かった。

 じゃが、本当にどうしようもないんじゃ。

75:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 18:17:41.32 ID:lL/o96KP0


('A`) (人魚なんて、本当におるとは思わなんだなぁ)


 夜は明ける。

 怪我した人魚を家に置いて、わしは漁に出掛けた。

 網を引いたり、櫂を漕いだり、ぶぅんが耳元でくっちゃべるのを怒鳴ったり。

 その日も変わらない忙しさ。だが、頭の中は人魚のことでいっぱいじゃった。


('A`) (見世物小屋の偽物や、絵巻くらいでしか知らんようなもんが目の前におる)

('A`) (珍しい生き物じゃ。もしかしたら誰ぞが高う買い取ってくれるやもしれん)


 たくさんの銭に囲まれて、三食腹いっぱい飯を食べる自分を想像して。

 でももう一度人魚の顔を思い浮かべると、そんな気も失せる。


('A`) (甘ちゃんじゃのう、わしは……)

76:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 18:22:27.46 ID:lL/o96KP0


 人魚は一人ぼっちじゃった。

 家族や故郷から離れて、見知らぬ土地で怪我をして。

 不安だろう。怖いだろう。

 そう考えると、家に一人置いてきたことも惨めな気分に思えてくる。


( ^ω^)「おン?! どくお、どくお! どうしたお?」

('A`)「今日はもう帰る」


 沖に出た船がやっとこさ浜に底を付けると、わしはすぐさま家に引き返した。

 人魚が心配で堪らなかったわしの耳に聞こえてきたのは、歌じゃった。

 案の定、わしの家から聞こえてくる。


 それで戸の前に黒山の人だかりじゃ。

78:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 18:29:17.02 ID:lL/o96KP0


( ・3・)「おお、どくおじゃ!」

(; ><)「どくおさん! ウチの中から女の人の声がするんです!」

('、`*川「いーい声だねえ」

(,,゚Д゚)「新しい嫁でもとったのかい? いつのまにだよ?」

(*゚ー゚)「ねえ、どくおさん教えとくれよ! 嫁さんの歌が気になって仕事が手に付かないよ!」


 漁をやって毎日退屈に過ごしとる奴らは、こういう身近な事件に敏感じゃ。


(゚A゚)「帰れ! 帰れ!」


 わしはそいつらを押し退けて、蹴っ飛ばして、開けた戸の隙間に滑り込んだ。

 しっかりとつっかえ棒を挟む。桶の中で人魚が目をまん丸にして驚いておった。

80:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 18:34:26.06 ID:lL/o96KP0

川д川「ど、どうかしましたか?」

('A`)「どうして静かにしとらん! 歌なんぞ唄ったら人が寄ってくる!」

川;д川「ご、ごめんなさい……」


 桶の中で、人魚はしゅんと小さくなる。


('A`)「お前さんのことは村の奴らには秘密じゃ。わかったか?」

('A`)「でなきゃ、見世物小屋に売られてしまうぞ。みんな貧乏なんじゃ、銭のためなら何でもやる」


 ――さっきの自分ですらそう思ったのだから。

 喉まで出かかったその言葉を飲み込んで、わしは天秤に小さな桶を吊るす。


('A`)「海水を汲んで来る……。静かにしとれよ」

川д川「はい……」


 すがるような目付きの人魚が、本当に哀れだと思う。

82:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 18:42:21.57 ID:lL/o96KP0


 水平線に日が沈む。


('A`) (わしは後どんだけあの人魚を家に匿わねばならんのじゃ……)


 煩わしいなら見捨てればいい。浜に逃がすでも、見世物小屋に売り付けるでも。

 でも出来ない。同情なのか、偽善なのか、良く分からんかった。


('A`) (嫁か……)


 死んだ“くぅ”の顔が浮かぶ。

 長い黒髪が綺麗で、肌が白くて、わしにはもったいないほどの美人じゃった。

 ちょっと物言いのきついところもあったが、根は優しくて真面目な娘じゃった。

 だが、ある年に流行った病で、くぅは死んだ。

 綺麗な顔がぱんぱんに腫れ上がる様子は、傍でも見ていられなかった。

83:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2010/07/19(月) 18:47:18.34 ID:lL/o96KP0


 もしかしたら、人魚にくぅの面影を重ねとるのかもしれん。

 長い髪、白い肌、似ているところは多い。なにより顔は綺麗な娘じゃった。


(-A-)「いいやぁ、相手は人魚じゃ……」


 わしは人間で、ただの貧乏な漁師。

 望むべくもない。何より昨日今日転がり込んできた相手に、嫁になれなど。

 ただ、あのまま一人で家に閉じ込めておくのも可哀想でならなかった。

 何か、何かしてやれないか。

 そう思いながら桶いっぱいに海水を汲んで、わしは家に引き返した。


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