471:(゚、゚トソン 溶けずに残った砂糖のようです :2011/02/04(金) 01:13:56.62 ID:cP+n2hgVO
最後に、最後に一度だけ―――。
そうして伸ばした手は虚しく空を切り、するりと貴方は消えてしまった。
私にはそれを言う、勇気も何もないのに。
ただ一つだけ、砂糖の様に甘い、甘ぁい恋心しか残っていない。
そんな夢を見て、あの日のことを思い出した。
473:(゚、゚トソン 溶けずに残った砂糖のようです :2011/02/04(金) 01:15:11.54 ID:cP+n2hgVO
( ФωФ)
(゚、゚トソン
お互いに一言も発することはなく、目の前のカップを手で包みながら静寂の中。
何かを言うべきだ。しかし、何を言うべきか。
きっと二人ともそんなことを思いながら、ただただ流れる時に身を委ねます。
( ФωФ) 「そう言う、ワケである」
(゚、゚トソン 「そう言う、ワケですか」
意を決した彼が言葉を紡ぎますが、私には何も言うことが出来なくて。
彼の言葉をオウムの様に返すだけで、胸が押し潰されそうでした。
本来であるのならば、喜ぶべきその報告。
しかし彼はその良い報せと共に、私を突き落とします。
474:(゚、゚トソン 溶けずに残った砂糖のようです :2011/02/04(金) 01:16:47.26 ID:cP+n2hgVO
( ФωФ) 「夢が叶うのである、その為に……と言う選択しか出来なかった我輩は、愚かであるな」
(゚、゚トソン 「いえ、仕方がありませんよ。目を付けられたりすると、その道を閉ざしてしまいかねませんから」
彼の、CDデビューが決まった。
夜中にアコースティックギターを掻き鳴らし、誰もいないバス停で歌っていた彼の。
その見た目とは合わないハイトーンボイスに、センチメンタルな曲調の彼が、認められたのです。
恋人としてこんなに嬉しいことはありません。
報された時は、その感情を抑える為にくるくると紅茶を掻き混ぜていました。
なので、彼の笑顔に罪悪感が隠れていたことなんて、気づける訳もなく。
( ФωФ) 「わかって、くれるか……?」
(゚ー゚トソン 「えぇ、別れましょうか」
あくまでも普段通り、淡泊な私を演じて気丈に笑ってみせます。
最後くらいはいい彼女を演じましょうか。
( ー *トソン 「本当に、よかったです」
( ФωФ) 「……」
477:(゚、゚トソン 溶けずに残った砂糖のようです :2011/02/04(金) 01:22:32.88 ID:cP+n2hgVO
鼻の奥がツンとして、私を責めます。
"本当にいいのか?"、"今ならまだ間に合うぞ?"
言葉たちがぐるぐると私を囲み、ずっと回りながら。
( ー *トソン (いいのですよ)
きっと彼の彼女として――いえ、もう彼女ではないのかも知れませんね。
彼のファンとして、これが正しいのです。
( ФωФ) 「お前のことである。どうせ、何が正しいのかなどと、考えているのであろう」
( 、 トソン
流石、と言ってよいのでしょうかね。
彼には私のことなどお見通しであったようです。
478:(゚、゚トソン 溶けずに残った砂糖のようです :2011/02/04(金) 01:24:06.85 ID:cP+n2hgVO
( ФωФ) 「無理をするでない。お前がツラいのならば、我輩は……」
フッと、紅茶の水面に波紋が起ちます。
何となく今、わかってしまったから。
(;ー;トソン 「いえ、気にしないでください」
彼に何を言っても、もしそれで彼の決心が揺らいでも。
いずれ私たちは、そうなってしまうのだろうから。
( ФωФ) 「お前、泣い……」
(ぅ、゚トソン 「貴方が、最後まで言葉を紡げなかった」
いつも自信に満ちていて、自分の発言こそが絶対だと信じているような、彼の口調。
だからこそ気づけた。途中で言葉を止めたのは、その自信がなかったから。
つまり、この恋が終わってしまったから。
479:(゚、゚トソン 溶けずに残った砂糖のようです :2011/02/04(金) 01:26:14.59 ID:cP+n2hgVO
(゚、゚トソン 「頑張ってくださいね」
( ФωФ) 「あぁ……スマンのである……」
(゚ー゚トソン 「謝らなくていいですよ」
どのくらいの時間包んでいたのかわからないそのカップを持ち上げ、中身を口に含む。
そう言えば先程、中に涙が落ちてしまったのでしたっけ。
(゚、゚トソン (関係ありませんがね)
口に含んだ冷めた紅茶は苦くて、思わず顔をしかめてしまいます。
漂っていた香りも、想像していたこれから先の彼との時間も、湯気となって消えてしまった。
その全てがこの恋が終わっていることを告げているようで、思わず苦笑いを浮かべてしまいます。
やはり最後だけ抱き締めてくれと言おうかと思ったが、何となく今更な気がして。
苦い紅茶と共にその言葉を飲み込みます。
480:(゚、゚トソン 溶けずに残った砂糖のようです :2011/02/04(金) 01:28:03.52 ID:cP+n2hgVO
(゚、゚トソン 「私は、待っていますよ」
( ФωФ) 「……」
甘い砂糖を入れながら、甘い夢を望んで、甘い言葉を吐く自分は、きっと何よりも考えの甘い、ワガママな人なのでしょう。
(゚、゚トソン 「貴方が、大丈夫だと言えるその時まで、いつまでも」
いくら掻き混ぜてみても、砂糖は溶けきる様子もなく。
まるで、待つと告げている自分と重なっているようです。
( ФωФ) 「わかった…」
きっとこの約束は、果たされることもなく溶けずにカップの底に残ってしまうでしょう。
私は約束を抱いたまま眠り、いつまでもいつまでも訪れることのない夢を見るのです。
そしていつかは、ブラウン管の中に映る彼の活躍に喜び、訪れない約束に寂しさを覚えるのです。
何となく、そう思うのです。
482:(゚、゚トソン 溶けずに残った砂糖のようです :2011/02/04(金) 01:30:17.73 ID:cP+n2hgVO
(゚、゚トソン 「では、私はこれで」
飲み干した紅茶のカップの横に五百円玉を残して、席を立ちます。
彼からは何とも気のない返事だけが聞こえ、舌には溶け切らなかった砂糖の甘ったるさが残っています。
"何処にも行かないで"
頭を過るのは、そんな言葉。
浮かぶ言葉とは裏腹に、立ち上がったのは自分なのが少しおかしく感じてしまいました。
伸びを一つ、太陽へと手が届くくらいにと思いながら大きく。
一人になったなぁと、空へ小さく呟いてみます。
風が言葉もなく、私の横をすり抜けて行きました――。
484:(゚、゚トソン 溶けずに残った砂糖のようです :2011/02/04(金) 01:35:04.98 ID:cP+n2hgVO
(゚、゚トソン 「あれが、三年前でしたっけ」
あの日と同じように紅茶を啜りながら、ぼーっと部屋のテレビを見つめています。
デビューからの彼は凄い勢いで有名になっていきました。
ドラマや映画、CMなどに曲が使われて、瞬く間に雲の上の人です。
今もテレビに映る彼とそのドラマの主演女優の姿を見て、笑みを漏らします。
右上に貼られているのは、"熱愛発覚"の四文字。
何だか全てが下らなく思えてしまいそうです。
488:(゚、゚トソン 溶けずに残った砂糖のようです :2011/02/04(金) 01:43:58.09 ID:GdmhY9Qr0
ふぅと息を吐いて、目を閉じます。
(-、-トソン 「私は、馬鹿なのでしょうかねぇ」
何たって、いまだにカップの底で、溶けずに残っているのですから。
テレビの中で慌てている彼を観て、一層笑みが深くなってしまいました。
(゚、゚トソン 「私は待ってますよーっと」
まだ暖かい紅茶が柔らかい風味で、口を満たしました。
ロマネスク。
私はまだ、ここで待っています。
貴方の愛が戻って来ることを信じて、いまだに。
まるで溶けずに残った砂糖のように、まだここで―――。
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- 2011/02/06(日) 02:29:44|
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