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iconお題「満員」「水晶」「電波」「進化」
2012/12/13 19:23

28:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/12/12(水) 01:53:36.46 ID:4qhPanSS0
お題
「満員」「水晶」「電波」「進化」

('A`)「…………」
 締め切っていたカーテンと窓を申し訳程度に開けて、
チラリと俺は外を――道路を歩く人を覗き見る。

('A`)「――――……」

そして額に輝く黄水晶も見る。

('A`)「はぁ……」

 固形物のようなため息が漏れた。
声帯はこのご時世、殆どの人間が衰えてしまっているが、俺のこれは現役バリバリだ。

('A`)「……すまんな、こんなふがいのない持ち主で」

 だから俺は喉を震わせて詫びる。
窓の隙間から、ひしめくような重苦しい曇天を仰ぎ見て、ついでに額の『それ』を撫でた。
 硬い石の手触りが指先にあって、どこまでも透明の石を俺は幻視する。

 ――さて、何から話せばいいものか。
この世界は、今から50年前にガラリとその姿を変えた。
そのキッカケを作ったのは、外国で発掘されたとある『水晶』だった。
ソイツは見かけこそ、それまで目にしていた物と変わらないものの、妙な特性を持っていたのだ。
そう、その特性が、人間の社会を――いや、人間そのものを変えた。

29:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/12/12(水) 01:56:22.94 ID:4qhPanSS0
 誰が発見し、実験し、普及させたのかはもうとんと昔のことなので忘れたが、
とにかく、額に水晶を取り付けた人間は、『電波』をやりとりできるようになった。

 早い話が『進化』したのだ。

 まず携帯が姿を消し、ネットもアングラの文化として細々と存在するだけとなった。

 それも当たり前だろう。
タイムラグのない情報伝達手段として、もっと有効なものが現れたのだから。

 頭に水晶を埋め込むことを全国民に課してから20年、全世界の人口の86%が水晶持ちになった。
くたばりかけの爺、婆、植物人間や失言症、吃音症患者までもが水晶で持って流暢に『会話』する。
 言葉と思念が行きかうネットワーク上、無言なのは、きっと――

('A`)「小学校低学年からのベテラン引きこもり、
   今年でめでたく18歳の俺くらいだわなぁ。ヒャッヒャッヒャッ」

 乾いた笑い声。それはそれはしがれた、魔女か何かを髣髴とさせる醜い笑い声だった。


 ――俺が人付き合いというものに違和感を覚えたのは遡ること幼稚園の頃だ。

 あれは確か、祖母に手引かれて大きな街のデパートへ出かけた時のことだった。
 横断歩道をあちらから渡って来る人の群れとぶつかった瞬間、悟ったのだ。

『ここに居る一人一人が自分と同じように意思を持ち、それぞれの過去を背負っている存在なのだ』と。

30:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/12/12(水) 01:58:48.41 ID:4qhPanSS0
 
 ――――――ああ、なんて、おぞましい、と、そう思った。

 幼い心で理解した真理は、途方もない気持ち悪さを俺に与えてくれた。

('A`)「さしずめ、魂に刺さった小骨、かね――」

 それが抜けない。

 14年経った今でさえ、癒えない傷から俺は血をダラダラと流している。
どれだけ弱いのだろう、俺は、と思うと同時に、ケラケラと笑いが出た。

 ネットワーク代わりに水晶、といっても、原理はやはりネットと同じだ。
 メールや情報が思念となっただけだから、人間が携帯やコンピューターの代わりになったと言った方が良いか。
それをしかるべき相手に届けるためには『アドレス』が必要になる。
 俺の場合は、登録数三件――父と、母と、それから。

『ドクオ』

 ふいに、脳内で声が響く。
凛として、落ち着いたメゾアルト。鈴の鳴る様な、という描写がまさしく似合うその声を、俺は知っている。

('A`)「なんだ……お前か」

川 ゚ -゚)『なんだとはなんだ。昔馴染みに酷い言い草だな』

('A`)「確かに、こんな俺をまだ見捨てないでいてくれる慈悲深いに幼馴染様は酷いいい草だったかもな」

31:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/12/12(水) 01:59:32.95 ID:4qhPanSS0
 何の淀みも躊躇いもなく滑り出している嫌味に、自分で言って置いて辟易する。
卑屈人間コンテストとかあればいい線いけるかもしれない。
まあ、ひきこもりだから出場不可能だけど?

川 ゚ -゚)『だから、お前はどうしていつもそう――ハァ、まあいい。今なにしている?』

 俺の脳内を察したかのようなため息が聞こえてくる。
んべ、と舌を出しながら、俺は返答した。

('A`)「いや、別に。人間観察を少々?」

川 ゚ -゚)『は? ……ニュース聞けるか?』

('A`)「ニュース?」

 あまりにも脈略がないものだから、素っ頓狂な声をあげてしまった。
ニュース、ニュース、と呟きながら、俺は目を瞑って周波数をあわせる。
ラジオのそれと同じ。絞るようなイメージだ。

『i府は石化症患者に対しての支援として――』

('A`)「ああ」

 聞き覚えのあるワードを脳内が拾った。
石化症。いま巷で話題の新しい病だ。

32:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/12/12(水) 02:00:21.74 ID:4qhPanSS0
川 ゚ -゚)『怖いよな――何にも反応を示さなくなるんだろ?』

('A`)「石みたいになるから石化症、か」

川 ゚ -゚)『ああ。そうらしいぞ』

('A`)「歳越し時に増えるんだっけか?」

川 ゚ -゚)『まあな。発症のメカニズムも不明で――色々と後手に回ってるらしい』

('A`)「へぇ、そりゃ怖い」

 シャッとカーテンを締め、俺は適当に相槌を打つ。


川 ゚ -゚)『手にするべきではなかったのかもな、過ぎた力だ』


 そして呟きを聞いた。
何を今更、と俺は思う。進化を目指したのは他ならぬ俺たちなのに――

('A`)「ま、人間いつかは死ぬさ。それが遅いか早いかだ」

川 ゚ -゚)『またそういうことを……』

33:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/12/12(水) 02:01:00.86 ID:4qhPanSS0
 不満げな声に苦笑一つ返して、俺は自室の学習机の椅子に座る。
目の前には古い古い相棒のデスクトップパソコン。
アンティークとして売り出したほうが価値が上がりそうな、よく処理落ちするのがチャームポイントの俺の相棒。

('A`)「ま、頑張れよ。ああ、花の大学生活はどうだ?」

川 ゚ -゚)『それなりにやってるよ』

('A`)「ならば結構」

 電源ボタンを押し、起動させる。ピコン、と一拍遅れで反応を示すパソコン。

川 ゚ -゚)『ああ、まあ、お前の分まで精精楽しむさ』

('A`)「左様でございますか、そりゃよかったですクー様」

川 ゚ -゚)『他人事みたいに言うなって』

 クー。
俺の幼稚園の頃からの幼馴染で、家族以外で唯一俺が心を許せた人間。
今はめでたく大学生として、都内のそれなりに名の通ったところに在籍している。
何かと俺を目にかけてくれて、たまにこうして通信もする間柄である。
 救われている。恵まれている。
こんな境遇にありながら、俺が堕ちきっていないのはコイツがいるからだろう。

35:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/12/12(水) 02:01:51.68 ID:4qhPanSS0
川 ゚ -゚)『まあ、お前の分まで目指せ友達100人さ』

('A`)「そうですか、まあ頑張ってください」

川 ゚ -゚)『だから、なぁ――』


 この有能な幼馴染なら、遠からず実現するだろう。
激励するほどでもないことだと思った。
引き止めることなど立場上できるはずがない。

 ――――嗚呼、でも、そうだ。でも、するべきだったのだ。俺は。
引き止めるべきだったのだ。行くなというべきだったのだ。

  この時、是が非でも。



 水晶は、そのネットワークの広げ方によって様々な色合いを見せる。
黄色、黒、青、緑――その人間のパーソナルや交友関係を表すようにその色を変える。

 俺の水晶は――玻璃(はり)のように白く、透き通ったものだ。

 まあそれも道理だろう。
前述の通り、俺には友人のみならず、知人と呼ばれるものは殆どいない――



36:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/12/12(水) 02:03:32.74 ID:4qhPanSS0
 部屋の中にいてすら吐く息が白い。
暖房器具がまともに揃っていない自室だから、途方もなく寒い。
 年の瀬だの年越しだので世間は浮ついているが、俺の部屋と俺は相変わらず引きこもっていた。

 布団を頭からかぶって、芋虫のように丸まりながら俺はぎゅっと目を瞑る。
埃っぽい匂いと息のつまるような感覚に、きっと人付き合いとやらもこれと似たようなものなのだろうと思った。

 あと5分もしない内に年と干支が変わる。
ふと、大学生活をエンジョイしているらしい幼馴染のことを思い出してみたりする。

『ドク、オ――』

('A`)「ふぁ!?」

 まさか! 俺はコンタクトなんかとってねぇぞ、と思いながらもぎょっとして言葉が出た。
聞き覚えのある声。落ち着いたメゾアルトが、俺の脳内に響く。
少し早い新年の挨拶だろうか、というところまで思考が走って、妙に歯切れの良くない発音を不審に思った。

 どうした、と問う前に、クーが言う。

川 ゚ -゚)『すま――脳が――ああ、――ク、ソ』

(;'A`)「お、おい!? どうしたんだよ、クー!!」

川 ゚ -゚)『無理、送――くる情報、過、処理が――ああ、石化――しょ』

(;'A`)「おい!!!??? クー、おい!!!!!?」

37:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/12/12(水) 02:04:43.27 ID:4qhPanSS0
 異様な事態だと察した瞬間に、布団を蹴り上げて起き上がって、俺はクーの名前を呼ぶ。
苦しそうな、うめくような、どこか諦めと笑いが混じった声だけが空っぽの脳ミソに響いていた。

川 ゚ -゚)『ハハハ――、前時代で散々、言わ――らし、年賀メー は時か――空――て?』
('A`)「おい、ちょっと待て! 喋るな、もう!!!」

 何となく、背筋をなぞる嫌な予感があった。
 ネットワーク代わりに水晶、といっても、原理はやはりネットと同じだ。
メールや情報が思念となっただけだから、人間がコンピューターになったようなもので――

 俺は自室のパソコンを見る。
電源の落ちたディスプレイには、滔滔とした――黒々とした闇だけがあった。
 アンティークとして売り出したほうが価値が上がりそうな、よく処理落ちするのがチャームポイントの俺の相棒。

川 ゚ -゚)『頭の中が、『満員』、で、』

('A`)「おい、クー!! クー!!?」

 遅い。
 もう遅い。
知っている。解っている。俺は日常的に繰り返していたはずだ。
フリーズし、何の操作も受け付けないパソコンは――電源を落とし、もう一度入れるしかない。

川 ゚ -゚)『――――……』

('A`)「……は、はははは……」

 まず笑いが漏れた。

38:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2012/12/12(水) 02:05:43.44 ID:4qhPanSS0
 

('A`)「ははは……はは、ひゃひゃひゃひゃひゃ……」


  乾いた笑い声。
それはそれはしがれた、魔女か何かを髣髴とさせる醜い笑い声だった。

 笑う。
 笑う。
 俺は笑う。

('A`)「落ち着いて考えてみろよ。こりゃぁ――リア充が一杯死ぬぞ!!!」

 メシウマ、メシウマだ、と壊れた九官鳥のように俺は繰り返した。
 俺の卑屈を窘める声はもうしない。もう全てが無音だった。

 俺の声が、寒々しい部屋にいつまでも響いていて、
 俺の両目からとめどなく流れる涙だけが、玻璃(はり)のように輝いていた。


            おわり
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