232:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 04:05:20 発信元:219.125.145.46
( ^ω^)「……」
十年間生活した、塀の奥を目に浮かべつつ、僕は刑務所をあとにした。
僕はその足で、ある墓地へと向かった。
墓地の隅に忘れられたように立っていた墓石。
そこに刻まれた文字。
それは僕に命を奪われた被害者達の名前。
刑務所では、僕宛に遺族からの手紙は一切来なかった。
彼女の家族は、夫だけだったから。
彼の家族は、両親だけだったから。
僕は、十年前の出来事を脳裏に浮かべた。
233:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 04:07:46 発信元:219.125.145.56 [sage]
――――――――――――――――――――――――――――
( ^ω^)「ちょっと友人の引っ越しの手伝いをしてくるお」
ξ゚⊿゚)ξ「夕飯までには帰ってきなさいよ」
( ^ω^)「わかってるお」
お腹を大きくした妻に向かって、僕は答えた。
正直、出産間近の妻の身体が心配ではあるが、友人の引っ越し手伝いは以前からの約束であった。
( ^ω^)「さっさと終わらして帰ってくるお」
僕は軽トラで友人宅へと向かった。
234:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 04:10:29 発信元:219.125.145.43 [sage]
('A`)「よぉ。助かるぜ」
( ^ω^)「ちゃっちゃと運ぶお」
あまり多くない荷物量だったため、やるべきことは順調に進んだ。
('A`)「ありがとうな」
( ^ω^)「いつでも呼んでくれお」
('A`)「……一杯どうだ?」
( ^ω^)「いや、軽トラで来たし……」
('A`)「祝いの席だし一杯位大丈夫だろ」
( ^ω^)「……じゃあ一杯だけもらうお」
今思うと、その一杯が駄目であった。
しかし、押しに弱い僕は友人に勧められる形で、酒を一杯呷った。
当初、酔った気はしなかったが、帰り道の車内で揺られていると、程よく酔いが回ってきた。
235:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 04:12:34 発信元:219.125.145.50 [sage]
( ^ω^)「――お?」
236:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 04:15:54 発信元:219.125.145.58 [sage]
僕が車内で意識をはっきりさせた時、眼前に広がっていたのは、
歩道から見た風景。
トラックに乗っていたはずなのに、と少し視線をずらすと、壊れたガードレールが見えた。
そして、フロントガラスの下方に見える、
人の足。
( ゚ω゚)「うゎ……うわあぁぁあああぁー!!!」
237:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 04:21:37 発信元:219.125.145.47
そこからどうやって家に戻ったかは覚えていない。
僕は家に戻ると妻の名前を叫んだ。
( ゚ω゚)「ツン! 何処だお! 返事をしてくれお、ツン!」
今思うと、非日常に遭遇した僕は、日常の中にいるはずの妻を探していたのだろう。
僕は多分、十数分間は叫んでいたと思う。
239:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 04:27:41 発信元:219.125.145.52
ある程度の落ち着きを取り戻した僕は、居間の机の上に書き置きを見つけた。
『散歩に行ってきます
ツン』
( ^ω^)「散歩……」
妻が家に居ない理由を知った僕は、その紙の裏に妻への書き置きをした。
『少し出掛けてきます
ブーン』
実を言うと、この時既に自首の気持ちは固まっていた。
妻の悲しむ顔を見たくない、という気持ちが、僕に書き置きをさせた。
僕は近くの交番へと向かった。
241:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 05:00:01 発信元:219.125.145.44
( ω )「すいませんお」
( ^Д^)「はい、どうしました?」
( ω )「ひき逃げ……」
( ^Д^)「はい?」
( ω )「僕は人をひいてしまったお……」
(;^Д^)「へ? そ、それは本当ですか!?」
警官が慌てて周囲に連絡したり、事実を確かめようとしている間、僕は書き置きを見たであろう妻のことだけを考えていた。
242:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 05:06:43 発信元:219.125.145.53
それから数日が経ってから、僕は取り調べを受けた。
( ^Д^)「君がひき逃げをおこしたんだね?」
( ω )「そうだと思いますお」
( ^Д^)「? 自覚は無かったのかい?」
( ω )「当時少し酔っていましたお」
( ^Д^)「なるほど、飲酒運転か」
( ω )「刑事さん、僕がひいてしまった人は……」
( ^Д^)「妊婦さんだ。残念ながら亡くなったよ。お腹の中にいた赤ちゃんもな」
( ω )「妊婦さんでしたかお……」
僕はそれを聞くと、自分の妻と同じ、妊婦をひいてしまった事に対する、後悔の念に呑み込まれた。
243:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 05:11:12 発信元:219.125.145.56
( ^Д^)「ところで、あなたと奥さんとの夫婦関係は?」
( ω )「仲は良かったと思いますお」
( ^Д^)「喧嘩等は?」
( ω )「特には無かったと思いますお」
( ^Д^)「それは本当かい?」
何故だろう。妙に刑事が夫婦関係について質問をしてくる。
そう思った瞬間、僕の頭にあってはならない考えが浮かんだ。
244:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 05:16:06 発信元:219.125.145.86
( ω )「あの、その妊婦さんの家族は……」
( ^Д^)「両親共に亡くなっていて、夫が唯一の近親者だ」
( ω )「もしかして……」
( ;ω;)「――もしかして、その妊婦さんの名前は『内藤ツン』ですかお!?」
刑事の首が肯定を示した瞬間、僕は絶望の闇に包まれた。
245:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 05:22:08 発信元:219.125.145.54
その後、僕は裁判で懲役十年の判決を受けた。
妻を殺してしまった後悔
妻を無くした悲しみ
その二つの重い負の感情と共に過ごしていた僕に、あの刑事が一つだけ伝えてくれたことがある。
( ^Д^)「あなたの子供は、事故に遭遇した直後に産まれて、亡くなったらしい」
自分と彼女の子供がこの世に生を受けた。
例え、玉響の命であったとしても。
その事実が、わずかに、ほんの少しだけ、僕の中の闇を和らげてくれた気がした。
――――――――――――――――――――――――――――
246:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 05:24:50 発信元:219.125.145.54
テレビなどで遺族の方はよく、時計が止まったままだ、と表現されるが、本当にその通りだと思う。
僕の時間は、十年前のあの日から一切動いていない。
法律上は罪を償ったとはいえ、僕の心が晴れることは無い。
しかし、このままでは彼女に怒られてしまうだろう。
ξ゚⊿゚)ξ「何やってんのよ、早くしなさいよ」
彼女なら、今の僕にそう言う気がする。
もしかしたら、息子からも怒られるかもしれない。
247:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 05:30:30 発信元:219.125.145.55
( ・∀・)「何やってるの、父さん。早く行こうよ」
僕の中の彼は、僕の時間を動かす為に僕を引っ張ろうとし、
ξ゚⊿゚)ξ「ほら、私が一緒にいるんだから」
僕の中の彼女は、動こうとする僕を全力で支えようとしてくれる。
248:( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです :2010/03/16(火) 05:39:08 発信元:219.125.145.58
僕は電話帳を取りだして、飲酒運転被害者の会に電話をかけた。
飲酒運転撲滅の為に、被害者からの視点の他、加害者からの視点を世の中に伝える。
そうすることで、僕の中の時間が少しずつ動いていく。
そんな気がする。
僕のしたことは、一生許されないだろうし、僕自身が許すことは無い。
それでも、
( ^ω^)「僕は少しずつでも動いてみるお」
( ^ω^)「もちろん、お前たちの分も背負って」
僕は
『内藤 ツン
内藤 茂等』
と刻まれた墓石に、そんな誓いを立て、前に歩き出した。
( ^ω^)の時間が少しずつ動き始めるようです 終
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- 2010/03/22(月) 23:47:41|
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